sohomug’s blog

住宅ライターのちょこっと仕事からはずれた話

たびだち

大学卒業を1年延ばしてアメリカに行ったのは、ブルーグラスの本場に行きたいというのももちろんあったけど、それよりとにかくアメリカに行きたかったんだという気がする。

 

今思うと無謀な行き方だった。2ヶ月の語学学校+2週間のホームステイというプログラムを見つけて手続したところまではしていたが、その後は何のつても計画もなく、われながらいったいどうやってブルーグラスに触れようと思っていたのだろう。親もよくぞ行かせてくれたものだと思う。

 

英語もとんとしゃべれず、車の運転もできず、向こうに知り合いがいるわけでもなく、前年に日本ツアーをしていたミュージシャンの、「アメリカに来るなら遊びにおいで」とくれた住所を持っていただけ。今から42年も前のこと。情報もなく、現地と日本との連絡手段もオペレーターを通す国際電話だけだった。

 

それでも具体的な不安感は、実はあまり抱いていなかった。というかピンと来てなかったのかも。かといってひたすらワクワクしていたわけでもない。

 

日本には一緒に音楽をする友だちがいて、楽しいこともいっぱいあって、このままここにいても十分満足なのに、なぜこの幸せな状況と別れて私は旅立とうとしているのか。突き動かされるように変わろうとする、自分の業みたいなものに戸惑い、私ってなんでこうなんだろうと思っていた。

 

そうして訪れたアメリカ。まずはカリフォルニアの語学学校で寮生活を送り、ジョージアに移動してホームステイをし、ブルーグラスを求めてインディアナを目指した。滞在して、やっと慣れて、心地よくなったころに別れを告げることになるから、そのたびに自分の決めたことなのに、「なぜ・・・」と自分の業を恨む気持ちになるのだが、それでも次のところに到達すれば、いつも新しいワクワクすることや人に会えた。ほっこり状態から旅立ったからこそ出会えたんだと、体全体で確信するようになった。

 

GO TO トラベルとか言われても、そもそも旅行に興味ないしなあと思っていた。なぜかあちこち旅してる人のように見られるけど、海外はアメリカに3回、台湾に2泊3日行っただけ。フェスやライブ以外の国内旅行もほとんどしない。観光が好きじゃないからとか、現地で音楽ができないととか、友だちがいるならとか、旅行しない理由を挙げてたけど、そうじゃなかった。私は旅行じゃなくて旅がしたいんだ。

 

体の奥から湧き出るわけのわからない思いに突き動かされ、心地よい状況を振り切って旅立ちたいのだ。下調べや情報収集もせず、出たとこ勝負で出会いたいのだ。

 

長らくそういう旅したい気分が沸き上がらないのを、年齢のせいにはせず、また何かに突き動かされて戸惑いながら旅立つ日がくることを楽しみにしたいと思う。