sohomug’s blog

住宅ライターのちょこっと仕事からはずれた話

SNSで思いがけない人に出会えるのはうれしい。特にずいぶん昔の知り合いで、交流の途絶えていた人が偶然見つかり、昔と変わらぬ軸を持ち続けているのを知るのは感慨深い。

 

たぶんもう20年以上前。仕事で知ったアンティークのショップ。その頃アンティークには一部に熱心なマニアがおり、カントリー調のアメリカンアンティークから少し大人っぽいイギリスやフランスのアンティークへと、人気が移り始めた時期だった。資本力のある会社がコンテナでどさっと仕入れているショップや、個人が趣味の延長でやってるようなショップなど、何軒も取材をしたが、中でもそのショップはオーナーさんのアンティークへの愛情が色濃く漂いながら、独りよがりではない「会社感」がきちんとあって、バランスのいいショップという印象だった。

 

そのショップの女性オーナーさんが設計士で、住宅設計もやってると知り、何軒か紹介してもらってお家取材に伺った。当時まだ珍しかった無垢の床や塗り壁の仕様で、職人さんが手仕事でコテむらをつけたり、アーチをつくったり、手の込んだ造作をして、洋館のような、ヨーロッパの民家のような家をつくっていた。

 

最近、たまたまインスタグラムでそのショップを発見した。場所は移転していたが、雰囲気は昔のまま。むしろ以前よりずっと洗練された印象で、長く続けている貫禄みたいなものも感じられる。

 

そこからオーナーさんのインスタにもつながって見てみると、手掛けた建築も紹介されており、やっぱり昔のままの自然素材と手仕事でつくった家だけど、昔より自由でのびやかで、こなれた感じがして、進化しているという感じ。それがとてもうれしかった。

 

思えば昔取材したアンティーク系のショップで、今はなくなっているところも多い。資本力のある会社がやっていたショップは、ファン層が思ったより広がらず、商売になりにくいと見切ったのかもしれない。わざわざ海外で本物のアンティークを買い付けなくても、手ごろな価格のアンティーク風のものが簡単に手に入るようになり、個人のショップもまた、商売としては立ち行かなくなったのかも。そういう意味で私の感じていた「バランスのよさ」も、このショップが続いた一つの要素かもしれないと思う。

 

そして住宅設計。無垢材や漆喰などの自然素材は価格が高く、扱いが難しいうえに、完成後の変化も予測しにくく、クレームの原因になりやすいと住宅メーカーでは採用がためらわれていた。そんな中でいくつかの設計事務所工務店は、素材の特性を研究し、職人を育成し、アフターフォローをしっかりとしながら、自然素材を採用してきた。そのショップの設計部門もそんな一つだ。

 

自然素材が手に入りやすくなり、扱いやすいものも増え、一般の人の間でも認知度が上がってきて、自然素材を使う家づくりをする会社もうんと増えた。昔から変わらず、自然素材の家づくりをしている会社を知っている私としては、ある程度自然素材の安全性を確保し、ニーズも増えてから参入してきている会社には、ちょっと「ふーん」という気がしたりする。

 

あと、スタイルのこと。住宅には流行が確かにあって、自然素材を使う家でも古くはカントリースタイル、そしてカフェ風の家、あとブルックリンとかカリフォルニアとかインダストリアルとか。会社によってはその時々の流行に合わせていろんなスタイルの家をつくっている。そんなことをするから薄っぺらい家になるんだと思う。

 

この会社をはじめ、私がいいなと思う会社はみんなスタイルの軸を持っている。特にこの会社はショップでそのテイストを示しているから、それを理解した人が家づくりを依頼する。スタイルの「軸」を持ったうえで、それぞれの施主の暮らしや好みに合わせた家をつくるのだ。この軸があるかどうかが、住んでいて愛着が深まる家かどうかの分かれ道なんだと思う。