sohomug’s blog

住宅ライターのちょこっと仕事からはずれた話

リアル

生活感をどこまで隠すか?見せるか?住宅やインテリアの撮影のときには悩ましい問題だ。写真だと実際に目で見ている以上に散らかって見えるから、「片づけすぎか?」と思うほど片づけることが多い。とはいえ、すっからかんだと嘘っぽいし、モデルルームみたいに見えかねないから、ほどよく生活感を残す。そのように操作するのだけど、そんな画策自体がそれこそ嘘っぽてイヤだとずっと思っていた。

 

だから「TOKYO STYLE」は衝撃だった。何の手も加えず、住んでるそのまんまの雑多な空間。むっちゃかっこいいと思った。

 

「フランス女性の24時間」にも憧れた。フランスに住む10人の女性に密着して、家での生活をありのままに写真と文章でつづった本。家も人もまさに自然体で、それでいて何ともおしゃれでかっこよくて、これはフランスだからできることなのか、でもいつかこんな風に日本の人に密着取材して、生活感があるけどかっこいい本をつくってみたいものだと思ってた。たぶん30年くらい経つけど、実現には1ミリも近づいてない。

 

ずいぶん昔、あるアンティークショップのオーナーさんのご自宅マンションがインテリア雑誌に掲載されていた。その方は山の中に英国カントリースタイルの別荘をお持ちで、その山の別荘のインテリアやそこでの暮らしがとても人気だったが、私はもっと肩の力抜けた感のある、ご自宅マンションがこなれててかっこいいなと思ったのだ。

 

特に私はキッチンのシンクに三角コーナーを置いたままの写真に唸った。通常の撮影では、三角コーナーは外す。しかしそのオーナーさんがリアリティを大切にする人のような気がしていたから、あえて「そのままで」と要望されたんだろうかと、私は深読みした。よく知っている編集部だったから、編集長に尋ねてみたら、「あら?そうだった?おしゃべりしている間に撮影したから、気づかずにそのままだったのね」という、気抜けのするお返事だったのだが。

 

とにかく私は三角コーナーも含めて、そのご自宅マンションにすごく感銘を受けたのだが、その後取材で会った何人かのインテリア好きの人から、「山の別荘があんなに素敵なのに、ご自宅はやっぱりあんなに生活感があるのね。ちょっとがっかりした」というような感想を聞いたから、生活感があまり出ないほうを好むのが多数派なのだろう。

 

それでも私は今でも、脱ぎ捨てた服や食べ終わった食器が乱雑に置かれていても絵になる家がかっこいいと思う。いや、「絵になる」というのも嫌な言い方だな。そんなもの全部がその人らしくしっくりしている感じか。

 

そんな風に生活感の出し方についてぐずぐず思い悩んでいる間に、世の中はInstagramなどで普通の個人が、ほどよく生活感を漂わせた素敵な家の写真を上げる時代になっている。でもフレームの外には見せたくない生活感がトリミングされているんだろうな、などと意地悪なことをつい考えてしまい、どこか嘘っぽい気がしてああいう世界は苦手だと思っていた。だけど先日、まさにそのようなInstagramで家のことを発信している人を取材して、ちょっと見方が変わった。

 

訪れるまではその人の投稿を見て、見た目はおしゃれだけど「哲学」がないよなーなどと思い、取材に気乗りがしていなかったのだ。訪れると確かに家の建て方やモノの選び方には、あまり触発される部分はなかったのだけど、フルタイムで仕事をしながら3人の子育てに奮闘しているその暮らしぶりに、ずいぶんと共感してしまった。

 

へとへとの毎日だけど、Instagramに家のことをアップすることがモチベーションにつながってる。Instagramでつながった人たちとの交流も心の支えになっている。そこには嘘っぽい世界を演出している人ではなく、確かにリアルを生きている人がいて、そのことに私はなんだかじわじわと感動していた。

 

取材の設問にSDGsのことなどもあったのだが、「日常に精いっぱいでそこまで考えられない」という答え。それもまたとてもリアルだった。原稿としてふさわしいのは、「地球に優しいモノを選んでます」とか「こんな風に丁寧に暮らしてます」なんだろうけど、そっちのほうが嘘っぽいじゃないか。日々を懸命に生きるその人の暮らしぶりが、とても美しいと思えた。