坂道の町
冬のはじめに朝散歩を始めた。体のためというより、むしろメンタルのため。「朝起きて1時間以内に15分の散歩をすれば集中力が上がる」という、在宅ワーカーのブログを読んだのがきっかけで。いまだに集中力のなさに悩んでいるという情けなさはさておき。
往復で15分。さてどう歩こう。毎日気の向くままに、というわけにはいかない。うちの周りが坂道だらけで、しかもわが家は小高い丘の上にあり、うっかりすると行きはずっと下りで帰りがずっと上り、ということになりかねない。それはいやだ。できれば前半にしんどいことをすませておきたい。
じっくりルートを検討した結果、うちよりさらに高い丘の上にある芝生の広場まで行って帰ってくることにした。これなら最後にちょっと上り坂はあるが、ほぼ「行きは上り、帰りは下り」のルートになる。
ただ前半の早いうちに、110段の階段があるのだが。。。メンタルのためとはいえ、筋力強化も大事だろう。やたら足(しかも腿のあたり)が冷えるのは、筋肉がないからに違いない。筋トレにもなれば一石二鳥だと頑張ることにした。
始めてから4ヶ月、ほとんど毎日110段の階段を上っているが(下りは別の坂道)、筋肉がへとへとになるのも息が上がるのも相変わらずで、冷えが解消した気もしない。ただ登り切って振り返ったときの景色は格別だ。
生まれてからほとんどを坂道の町で暮らしているせいか、いわゆるぶらぶら歩く散歩というものをした記憶があまりない。生家は裏山の登り口の坂の横に建っていて、15分も歩けば自然がいっぱいのところに行けるのだが、散歩というより軽い山登りだったし。
歩くのは好きだから、今の家でもちょっと離れた本屋さんや美容院や雑貨屋さんへ歩いて行ったりするけど、道のりのほとんどが坂道だ。どうも坂道を歩くのは私のイメージする散歩とちょっと違う。そういえば以前他の市に住んでたときは、平坦な道を道端の草花に目を留めながらぶらぶら歩いていて、あれは散歩っぽかったなあと今になって思ったりする。
坂道の町を歩くと、のんびりとか、ほっこりはできないけど、急に視界が開けたり、変な階段を見つけたり、無理やり建てたような家があったり、心の高まりみたいなものはたくさんある気がする。
以前作った「坂道の町」という歌は、「バスに乗って 坂道の町 散歩しよう」という歌い出しだ。その時は意識していなかったが、坂道の町は足で散歩する感じじゃないとどこかで思っていたのかな。
「古道具屋さんの 店の前の 渋いトランク」とか、「喫茶店に 一人で入る 背の高い紳士」とか、バス路線沿いの坂道の町に住んでたときに見てた光景を歌詞にした。阪神淡路大震災で大きな被害を受けた町に思いを馳せて書いた詩だった。
「並木の緑 茂る中に 信号の赤」というのも私が大好きだった景色だ。坂道沿いにすごく茂った街路樹があって、登り切って降りるときにふわっと、緑の中の信号が目に入る。
「車で走っていると信号が見えにくいから、街路樹の枝葉を伐採してください」と、役所に要望があったけど、「信号が見えるくらいゆっくり走ってください」と応じたという話、出来すぎてて作り話っぽい気もするけど、実話だと信じておこうと思う。